▽可愛いままでいたかった



 暫く見ないうちに髪が伸びたな、と思った。
長く遠方の忍務に出ていた俺の元部下を前にして他に言えることは幾らもあった筈だが、他はあまり変わり果てていて「変わった」とも口にし難かった。以前は はしゃぎがちな子犬のようだった男は、今は酷くぎらぎらした目付きで壁際に俺を追い詰める。頬は少し痩せて目付きが鋭くなったか、肌の白いのと白目がちな のだけが変わっていない。

「帰りました」

耳元に、そいつは告げた。と同時にびり、と鋭い痛みが走る。歯を立てられたらしいというのには遅れて気付いた。傷口から熱を持ち始めている耳朶に舌が這っ ている。濡れた感触が首を伝っているから多分出血している筈だ。

「痛、ぇ…馬鹿が、」
「俺、帰ってきましたよ。覚えてますか。」

足の間に膝が割り入ってくる。なんのことか思い出してぞっとした。


最後 にこいつと顔を合わせたのはもう三年も前になる。
よく懐いた部下だった。腕は未熟で頭も悪いが、素直でなんでも言うことを聞いたし、好かれていたと思う。俺も俺で餓鬼臭い年下の部下が可愛いかったのだ。 いつの間にかべったり依存させているのに気付いて戸惑った。その頃にはいい加減一人前になっていた男が俺の下で見習いに甘んじているのを見かねて他所の土 地へ仕事に遣ったのだ。
 初め、何年も敵地に住みつくことになる穴丑の仕事をこいつは泣いて嫌がっていた。散々ごねて見せた挙句に出てきた言葉を他愛もないと思って聞いたのを覚 えている。

帰ってきたらあなたの恋人にしてください。


「可愛かったですよね、俺」

くっ、と口の端で笑った男は本当に俺の部下だった男だろうか。成長を望んで手放したが、こんな風に変わるとは思ってもみなかった。

「俺だって可愛いまんまあんたの部下で居たかったですけど」

 一瞬の恨みがましい目のあと、男は自分の言葉を馬鹿にするようにけらけらと笑った。こんな風な笑い方をする男ではなかった。寒気がする。
やめろ、と言うと余計男は笑った。

「そんな悲しそうな顔しないでくださいよ。忍びっぽくなったじゃないですか俺。」

着物の上を細い指が弄ってくる。布越しにきつく性器を擦られて腰が引けた。

「よせ、…っ」
「犯しますよ、いいですね?」

 強く拒みきれなかったのは、罪悪感からだろうか。顔を背けるだけで黙った俺に、「ほんとうにあなた、馬鹿ですね」と言った声は柔らかだった。


 壁際に抑え込まれ立ったままセックスを強い られる。
後ろに男を受け入れるセックスは初めてのことではないから多少の無理は堪えられる。それよりも乱暴な挿入を柔軟に受け入れる身体を嘲笑われたことの方が堪 えた。

「なんだ慣れてるんですね。手酷く抱いて泣か せるのを楽しみにしてたのに。」
「ぅあ、…!」

 尿道口をきつく爪で抉られて声が震える。そ のまま指の先を突っ込まれるんじゃないかというぐらいの強さで入口をぐちぐちと嬲られ続けると焼けるような痛みに下半身が熱を持って痺れる。溢れ出た精液 で指先が性器の先端をぬるりと滑ったのが信じられないぐらい気持ち良かった。

「っん、あ…っ」

 右足を膝裏から持ち上げられて傾く上体を持 ち直す為に、眼の前の男の首に縋りつく。抽挿は乱暴だった。

「離 れてる間、ずっとあんたのこと考えてたんです。初めは寂しいとか悲しいとかそんなことばっかり思ってたけど最近は帰ってからどんな風にあんたを犯すのかそ んな想像ばっかりしてました。ここを離れてから碌な経験しなくって、本当にそんな下衆な欲望でも抱えてなくっちゃ生きていけなかった。」

壁に 押さえつけられて揺すられる背中が痛んでいる。
片足を持ち上げられて酷くバランスが悪いのに加えてきつい突き上げに踵が浮いて体勢が保てない。無意識に身体を逃がすとまた腰を引き戻される。中の良い所 が擦れて悲鳴の様に声が上がるのを堪えられなかった。

「っひ…あ、あ…!」

膝ががくがくと震えている。立ってられない?と聞かれて頷いた。ずるりと抜けだす感覚。先程まで縋り付いていた身体が離れて寄る辺がない。

「いいですよ、跪いて。」

 言われなくても既に膝から崩れ落ちている。荒く息を整えていると落ちかかった前髪を掻き上げる様手が添えられた。上向くと顔に温い飛沫がかかる。手の甲 で拭ったそれを確認しなくても生臭い独特の臭いでなんだか分かる。緩く絶望していると頭の上から声が掛った。

「…別に捨てられてからここ数年で気持ちが変わったとか憎んでるとかそういうことじゃないんですよ。ただ俺の性質が変わっただけで。」

こんな人間になりたくなかったとこの男は俺を責める。

「俺は今でもあんたが大好きです」

ああそうかよ、悪かった。
応えると頬を伝う精液が口に入って苦かった。


別に裏な内容ではないけど表とキャラ違いすぎて混ぜづら かったのでこっちに。
敵地にひとりで遣られて寂しい&取り調べとか過酷な中で暮らすうちに凄腕さんへの思慕がどんどん捩じれてきた白目&親離れ子離れしたかった凄腕


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